複数のクレーマーから詰め寄られた鉄道会社の社員が、「こんな仕事やってられっか!」と7.5mの高さの高架から飛び降りたというニュースがあった。
※出典:「近鉄社員、高架の駅から飛び降り」(共同通信)
命に別状がなくて幸いだったが、クレームという行為には人の命を奪う危険さえある。
「出て行け!お前は客じゃない!」と言える強さ
「日本も見習いたい外資系のクレーマー対応の極意」という内容も目にした。
先日、某ショッピングセンターで明らかにスタッフにからんで、
クレームを通り越して、「イチャモン」をつけているシーンに遭遇しました。すると欧州系の支配人が出てきた。
どう対応するのだろう?と観察していると、
「出て行け!お前は客じゃない!」と
物凄い剣幕で怒り出しました。「スタッフはお前の奴隷じゃない、謝れ!」とまで言い放ちます。
結局、クレーマーが逆に謝罪することに。
※出典:「『これを超えたら客じゃないラインがある』日本も見習いたい外資系のクレーマー対応の極意」(togetter)
至極当然な話だ。
こんな当然な話に注目が集まること自体、精神的苦痛の大きい労働環境で働いている人が多いことの証明だろう。
コールセンターでクレーマーが生まれるのは当然
※出典:plantronics
私は過去にコールセンターで働いたことがある。
コールセンターといえば一日中クレーム電話の対応ばかりしているイメージをお持ちの方もいるかもしれない。
多くの電話は平和的な問い合わせだが、1日に1件程度はクレームと呼べる電話にも遭遇する。
クレーム電話の対応履歴をデータベースで検索すると、以前に何度も(時には何十回も)電話をかけてきている人がほとんどだ。
失礼ながら、
「この人ヒマなのか?こんなに時間かけるくらいだったら解約したり、消費者センターに通報したりすればいいのに…。」
と思うときもある。
お客さんからすればもはやコスト(経済的・時間的費用)の問題ではないのだろう。
クレームによるコールセンター側の損失
お客さんがクレーマーへと成長する前に問題を解決できなかったことで、コールセンター側にも大きな損失が発生している。
- 長時間の電話代(フリーダイヤルの電話料金はコールセンター側が支払っている)。
- 対応したオペレータの稼働時間や精神的ストレス。
- 不満を抱えたクレーマーによって悪評が広まってしまうリスク。
などだ。
クレームに発展する前に短期間で問題を解決できればベストだが、そのためには高度な対応スキルと、コールセンター自体の組織力が必要だ。
残念ながらそんなに優秀なオペレ-タやコールセンターはほとんど存在しない。
優秀なオペレ-タやコールセンターが育たない理由としては、コールセンターの構造的な問題を二つ挙げることができる。
1)アウトソーシング:「お客様は神様です」精神の二重化
第一に、ほとんどのコールセンター業務はアウトソーシングされているという点。
ある商品・サービスを利用して不快な経験をしたユーザーが、コールセンターに電話をかけたとする。
ユーザーは「これで商品の提供元に直接意見を言える!」と思うかもしれない。
一般的なコールセンターのイメージ
※人物画像の出典:ぱわぽすけ
しかし実際に電話を取るのは、商品提供元から業務委託を受けた、コールセンター運営会社のオペレータだ。
コールセンターの現実
一介のオペレータには、お客さんの声を商品提供元に直接届けるような力もなければ、理不尽なクレーマーに怒鳴り返すような権限も与えられていない。
オペレータの上司に当たるスーパーバイザーにしても同様だ。
スーパーバイザーの上にはコールセンター長がいるが、センター長も商品提供元(業務発注者)から見れば、一介の下請け業者に過ぎない。
発注者に対して同等の立場で意見を言える下請け業者がどれだけいるだろうか?
コールセンターのオペレータは、電話をかけてきたお客さんの言うことを聞くしかない。
コールセンター運営会社(窓口としてのセンター長)は、発注者(商品提供元)の機嫌を損ねるようなことはしたくない。
コールセンター現場は、消費者と発注者という二重の「お客様は神様です」精神によってがんじがらめになっている。
2)高離職率:永遠に改善されない職場
第二に、コールセンターは場当たり的な業務運営になりがちという点。
コールセンターのオペレータの離職率は非常に高い。1年で9割のオペレータが入れ替わるとも言われている。
※出典:「離職率は9割! 知られざるコールセンターの実情とは」(ダ・ヴィンチニュース)
この「1年で9割が離職」という数値は、私の感覚からも大げさな数値ではないと思う。
離職率が高いということは、常に人手不足ということだ。
オペレータ教育やノウハウ蓄積が追い付かないため、電話対応は当然マニュアル化せざるを得ない。
スーパーバイザーやセンター長は職場全体の業務改善を図らなければいけないが、新人教育・積み残したクレーム対応・発注元への報告書作成などで手一杯のため、構造的な問題に手をつけることができない。
こんな状況では、「このラインを超えたクレーマーは切り捨てる」という意思統一を図る余裕など誰にもない。
「刃を研(と)がないきこり」の話そのものだ。
旅人:「きこりさん、精がでますなぁ。でもあんまり作業は進んでないみたいですね、一旦手を止めて、斧の刃を研いだらどうですか?」
きこり:「旅人さんよ、なに言ってるんだよ、刃を研ぐ時間なんておいらには無いんだよ、木を伐るのが忙しくてさ・・・。」
※出典:日本経営コーチ協会
まとめ
アウトソーシングによる無責任化と、高離職率でグダグダな職場。
この二つがそろえば、不満を抱えた顧客がクレーマーへと変身するのも当然のことだ。
クレーム文化の一因には消費者の心の狭さもあるかもしれないが、コールセンターという職場特有の非効率性が問題をさらに大きくしているといえる。