「なぜ神戸は最高なのだろう」
「京都には世界の全てがあった」
上記のような、故郷愛にあふれる文章を目にする機会があった。
単純にうらやましいと感じた。このような文章は東京で育った人間には書けない。なぜなら、私は生まれ育った「池袋」という場所にあまり愛着がないからだ。
池袋はこんな町
正式名称は「東京都豊島区池袋」。
池袋をよく知らない人のために説明すると、
- 池袋駅の1日の利用者数は約258万人(新宿に次ぐ日本2位)。
- ビックカメラとヤマダ電機の主戦場。
- アニメイト、まんだらけ、執事喫茶などが集まる「腐女子の聖地」。
- 1990年まで日本一の高さだった「サンシャイン60」という武骨なビル。
- ラーメン屋が多い。
- 外国人が多い。
- ラブホテル、風俗店、キャバクラの巣窟。
- エチカができた2009年あたりから風向きが変わった。
- 「池袋ウエストゲートパーク」の舞台。
このような町だ。
高校時代に寮生活で一年間離れたものの、24~25歳で実家を出るまで、私は池袋にずっと住んでいた。その後もちょくちょく戻ってきている。私にとっては、最も長く住んだ町=故郷になる。
池袋をあまり好きではない理由
私が通っていた高校は埼玉県の奥地にあった。
高校の友人から「どこ出身?」と聞かれたとき、「池袋っていうところ」と答えると、
「あんなとこに住む場所なんてあるの?」
「お金持ちだね。」
「超便利じゃん!」
という反応が返ってくることが多かった。
中学時代までは知り合いに池袋住民しかいなかったため、池袋が特別な場所だとは知らなかった。徐々に「池袋が実家」ということの有難みが分かるようになっていった。しかし、故郷への誇りや愛のような気持ちが育つことはなかった。
故郷愛が育たなかった原因を後付けで分析してみると、
- 小中学校でのいじめ。
- プチ家庭内暴力。
- ゲームのやり過ぎで目が悪くなったこと。
- 「視力回復には遠くの緑(山とか)を見ればいい」と親に言われたが、池袋には見るべき緑がなかったこと。
- 夏が暑すぎること。
- 春は花粉症に悩まされること。
- 何をするにもとにかくお金が掛かること。
- 自転車で走っているとしょっちゅう警察に止められること。
- リア充カップルがそこら中にあふれていること。
- 酔っ払いや暴走族やホームレスが多いこと。
- 駅や電車が混んでいること。
- 駅周辺が臭いこと(おそらく下水の老朽化)。
- 高層マンションやビルが多くて空が狭いこと。
これらのネガティブ要素が影響したものと思われる。
引越し先はどこも最高だった
池袋よりもよい住環境を求めて、色々な町に引っ越した。
信濃町(東京都新宿区)
信濃町は東京都新宿区にある。
駅前に某宗教団体の本部があるためか、敬遠する人が多い町だ。そのおかげかどうかはわからないが、好立地のわりには家賃が安かった。
※1R(20平米)で家賃70,000円+管理費3,000円
当時の私は、山手線の内側かつ総武線の南側が「高級住宅地」と思い込んでいた。謎の基準である。
あこがれの「高級住宅地」に住んでみて、
- 神宮外苑という巨大緑地が徒歩圏にあり、緑があふれていた。
- 職場まで自転車で約10分。満員電車に乗る必要がなくなった。
- 六本木や麻布という「大人の町」へも自転車で行ける。
このようなメリットを享受できた。
当時はテナーサックスにハマっていた。上智大学のグラウンドの土手、迎賓館前の広場、慶応大学病院の裏の高架下など、練習場所には困らなかった。同じ東京23区でも、池袋とは全く異なる環境があることに驚いた。
初めての一人暮らしで舞い上がっていたため、新品の家電・家具、ならびに引っ越し費用で、合計百万円以上を散財した。バカですね〜。
新高円寺(東京都杉並区)
「中央線沿線に住むと出世できない」という都市伝説がある。
中央線の有名な駅と言えば、高円寺・阿佐ヶ谷・荻窪だ。これらの駅の周辺には、芸人やミュージシャンを夢見る若者や、自称アーティストが集まっている。現実主義者が夢想家をバカにするために、この都市伝説を生み出したのかもしれない。
信濃町の次に私が一人暮らしをした町は、杉並区・新高円寺だった。
引越し先として新高円寺を選んだ最大の理由は、「家賃が安かったから」という点に尽きる。
※1K(16平米)で家賃26,000円
「節約してお金を貯める」という目的しか考えていなかったため、町には全く期待していなかった。
しかし、実際に住んでみると、
- 背の高い並木に囲まれた善福寺川。
- 多くの個性的な個人商店を抱える高円寺駅・阿佐ヶ谷駅前商店街。
- 環境保護活動に熱心な市民団体の事務所が多数存在。
このように恵まれた住環境にある町だということが分かった。
人前で話すことが苦手だった私は、「話し方勉強会」という集まりに何度か参加した。有志でスピーチの練習をする社会人サークルだ。集まりの後、高円寺のレストランで食事をする時間は、一人暮らしの孤独を緩和してくれた。
朝霞(埼玉県朝霞市)
新高円寺の安い家賃のおかげで、順調にお金が貯まった。もう少し質の高い住宅へ引っ越すことにした。
朝霞市は人口約13万人。日本最大のターミナル駅・新宿まで、電車一本で約30分。通勤の利便性からか、人口の微増が続いている。
引越し先として朝霞を選んだ理由はいくつかあった。
- 勤務先まで電車乗り換えなしで行ける。
- 家から最寄駅まで徒歩5分。
- 日当たりが良い。
- バス・トイレ別。
- キッチンが広い(二口ガスコンロ)。
- 実家まで電車一本で行ける。
このような理由からだ。
住み始めてみると、
- 駅周辺にスーパー、図書館、体育館、レンタルビデオ店などが集中している。
- 徒歩での生活が便利。
- 便利な割には人が少なく過ごしやすい。
- 市のスポーツジムを一回100円で利用できる。
- 駅周辺に大きな公園が複数ある。
このような周辺環境に恵まれ、とても過ごしやすい町だった。
黒目川、青葉台公園、朝霞の森、和光樹林公園、大泉中央公園が徒歩圏にあり、平日の疲れを癒す場所には事欠かなかった。
料理を作る時間がないときは、駅前の洋食屋や中華料理屋にお世話になった。近所の焼き鳥屋で友人と酒を飲んだこともあった。
札幌(北海道札幌市)
会社員をやめて自営業者になり、通勤という制約がなくなった。念願の花粉症避難を実施するため、北海道・札幌市に引っ越した。
札幌市の人口は約200万人。名古屋市に次ぐ全国第4位の巨大都市だ(東京23区を除く)。年間観光客の数も約860万人(うち外国人は約90万人)と、全国でもトップクラスの観光地として名高い。
札幌の良いところとしては、以下のような点が思いつく。
- 家賃が安い。※1K(20平米)家具・家電付きで家賃約30,000円。
- 地下道・地下街が発達している。※オーロラタウン、チカホ。
- 食事がうまい。
- 山がある。※藻岩山。
- 川がある。※豊平川。
- 温泉がある。※定山渓。
- 牧場がある。※羊ケ丘。
- 市電が走っている。
- 図書館が充実している。※札幌市中央図書館、北海道大学附属図書館。
- コインランドリーが多い。
- 公園が広大。※モエレ沼、大通公園、芸術の森。
- 道路が広い。
社会人向けライター講座や、除雪ボランティアに通い、知人・友人ができた。
仕事で知り合った友人からは、居心地のよいバーを教えてもらった。
ウニなどの魚介類、スープカレー、ジンギスカン、ラーメンなど、食べきれないほどの美味しいものがあふれていた。
越谷(埼玉県越谷市)
札幌の雪にも飽きたので本州に戻ってきた。
本州に戻る前に一か月、ドイツ・デンマーク・スウェーデンを旅行した。旅行中に「川の近くに住みたい」「近所に緑が多いところに住みたい」という気持ちが強くなった。
「川の近く」「近所に緑が多い」という点を満たしていたのが、埼玉県・越谷市だった。
越谷市の人口は約33万人。近年人口増加が続いている自治体だ。北千住という比較的新しい東京都のターミナル駅までは約20分。乗り換えなしで行ける。「越谷レイクタウン」という、イオンが運営する巨大ショッピングセンターも存在している。
越谷の良い点としては、次のようなものが挙げられる。
- 川が近い。※元荒川・新方川。
- 物価が安い。※スーパーが安売り合戦を展開している。
- 人口密度が低い。
- 平坦な道が多く、自転車で走りやすい。
- 高層マンションが少なく、見晴らしがよい。
- 田んぼや畑が多い。
- 地域おこしが盛ん。※まちバル、まちゼミ。
- レイクタウン周辺の雰囲気がこじゃれている。
- 公園が広い。※県民健康福祉村、しらこばと水上公園。
商店街を盛り上げようとがんばっている市民団体にボランティアで参加した。地元・越谷を愛している若い人たちがたくさんいることに感銘を受けた。
越谷は、都市と自然が良い形で共存・調和している町でもあった。夕暮れ時や明け方に、川沿いを散歩したりジョギングしたりする時間は最高だった。
神戸(兵庫県神戸市)
越谷のアパートで水漏れが発生したの同時に、神戸市の保有物件が空室になった。一石二鳥とばかりに、神戸に引っ越した。
神戸市の人口は約150万人。2016年の2月に福岡市に抜かれたものの、全国第6位の規模を誇る。
神戸市(三宮)の良い点としては、次のような点が考えられる。
- 海が近い。
- 山が近い。
- 飲み屋が多い。
- スイーツの有名店が多い。
三宮に詳しい友人と、三宮で一緒に飲む機会があった。一人では決してたどり着けないであろう、場末の居酒屋に連れて行ってもらった。恐ろしいほどにリーズナブルで、居心地の良い店だった。
私の保有物件は三宮からはかなり離れた場所にあったので、海の恩恵はあまり感じることができなかった。しかし山には近い場所だった。
- 山に沈んでいく夕日を毎日眺めることができる。
- 山を眺めながらジョギングができる。
- 路上や田んぼで多数の野鳥を目撃できる。
- 風が涼しいのでエアコン不要。
このような無形のメリットを享受することができた。
まとめ
故郷というものは便利なだけでは成り立たない。むしろ多少不便な方が、愛着を抱きやすいのかもしれない。
話は変わるが、私の母の故郷は長野県の山奥にある。
子どものころは、毎年お盆になると家族で長野に出かけていた。母の実家は、車なしでは最寄りのコンビニにすら行けないようなへき地にあった。それでも「故郷」という言葉で私が思い浮かべる場所は、この長野の山奥だ。
私には、故郷(池袋)の良いところを文章にできるような「愛国心」がない。引越し先を好意的に捉えやすい性格は、その影響だろう。
東京への一極集中は、故郷愛を持たない(または理解できない)人間を増やす方向に働いてきた。
だからこそ今、地方の魅力を語ることには意義があるのかもしれない。
地方の魅力が伝われば、東京へのこだわりを持たない層は「○○という場所は面白そうだな。」と考え、気軽に引越していくだろう。
ただしこういった人々は、地方に骨をうずめる気は全くない。よって、地方自治体が実施している「移住・定住プログラム」はあまり効果が期待できない。
「花粉症の季節だけ住みたい」、「夏の間だけ住みたい」、「イベントの時期だけ住みたい」、このような多拠点型生活に魅力を感じているだけだ。
私も含め、ワガママで困った連中だ。