お金を増やす方法として宝くじを選んだ人の末路は本当に悲惨?(後編)

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前回の前編では、「宝くじに当たった人は悲惨な人生を送る」という伝説の信憑性に疑問を投げかけました。
今回の後編では、「宝くじが当たったら」という小説を手がかりとして、「宝くじに当たった人は悲惨な人生を送る」という伝説の有効性を検証します。

年収400万円から、総資産2億円に

安藤祐介さんが書いた「宝くじが当たったら」という小説があります。

32歳で中堅食品会社に勤務している男性経理社員(年収400万円)が、2億円の宝くじに当たります。
お金や家族・友人・仕事などについて悩み、傷付きながらも成長していくというストーリーです。

小説という作品はフィクションですが、ストーリーや人物にリアリティを持たせるため、著者は入念な調査を行います。
著者の安藤さんは、当選者やその関係者、または当選金を入金する業務に携わっている銀行担当者などを対象として、多くのインタビューを実施しただろうと思われます。
並行して、膨大な量の資料調査も行ったことでしょう。

小説を、「宝くじという事象に関する調査の集大成」として捉えて、この小説からいくつか引用してみたいと思います。

忘年会でも、宝くじを当てて年明け早々会社から消えるというお決まりの冗談で盛り上がった。
約束通りなら、今日からぼくは会社に来ないはずだった。でもいつもと変わらず、いや、変わらないふりをして出勤している。

この部分は、前編で採りあげたベルギーの宝くじ調査の「宝くじ当選者の大半が、当選後も働き続ける」という調査結果と合致しています。

金融知識の不足によるツケ

年収400万円の叡智の全てを注いではみたが、二億円というキャンバスに夢を描き切ることなど不可能だった。

大金を手に入れたとしても、大金を扱った経験が少ないと、何に使っていいのか分からないという問題は残ります。

いきなり現金をあげるというのも味気ない感じがする。ぼくはかねてから考えていた親孝行プランを提案した。
「家をリフォームしない?もう相当古いでしょう」

このあと主人公は、1000万円を母親の口座に振り込みます。

1000万円振り込んでも手数料は840円。なんだか得した気分だ。

主人公はこんな悠長なことを言っていますが、このケースでは【特例贈与財産用】の贈与税が掛かります。
※出展:国税庁

基礎控除額の110万円を超える部分に対しては30%の税金が掛かり、90万円を控除したら177万円を、母親が納税する必要があります。

宝くじに当たった息子を近所に自慢したり、息子からもらったお金で親戚を引き連れてヨーロッパ旅行に行ってしまうような母親が、贈与税について理解しているとは到底思えません。

このシーンでは、主人公が贈与税について母親にアドバイスすべきですが、そもそも主人公本人が贈与税を理解している様子もありません。

小説の登場人物に目くじら立てて言うようなことではありませんが、複数の当選者へのインタビュー結果として、この主人公は描かれていると思われます。
すると、多くの当選者はこの主人公と同じような金融知識水準なのではないかと予想できます。

価値観の呪縛による浪費

持て余すほどの大金を何の苦労もなく手に入れてしまったことに対する罪悪感なのかもしれない。

物語の中で、主人公は数百万・数千万単位でお金をポンポン使ってしまいます。
そんな自分の行動を、主人公はこのように分析しています。

「お金は苦労して手に入れるもの」という典型的な価値観から、「お金にキレイも汚いもない」という価値観に転換できなければ、お金を増やしていくのは不可能です。むしろ減る一方です。

ぼくは元々、物に対する執着がない。大きな家も高い家も欲しくはないし、お金を運用してお金を増やすことに対しても、どうしても興味が湧かない。

就職氷河期組の私としては共感できる内容ですが、これはある意味「強がり」や「開き直り」の態度です。

例えば、片想いの相手がいたとして相手のレベルが高すぎた場合、「どうせ、おれ(私)なんかには無理・・・」と心の中で思ってしまい、「別に、アイツのことなんて何とも思ってないし!」と、口では強がりを言ってしまう可能性があります。
興味がないフリをしていれば、少なくともフラれて傷付く恐怖からは解放されるからです。

この防衛本能の働きは、お金に関しても基本的に同じです。
「興味がない」と言って勉強する機会から逃げている限り、「いざ勝負」という段階で手ひどい敗北にあうのは当然です。

物語の中で、主人公はこのあと4000万円を投資顧問(詐欺師)に預け、全て失ってしまいます。

「みんなアンタの悪口言いながらアンタの金で飲み食いしてる。アタシも含めてね。」

主人公がクラブを貸し切って開催しているパーティーに来た、同僚の西崎さんの言葉です。

主人公はパーティーを人助けのために開いているのですが、参加している人たちはタダ飯・タダ酒目当てに集まっているだけ、という事実を西崎さんから突きつけられてしまいます。

小説のメッセージ

最終的に、主人公は宝くじで得たお金を全て失い、仕事も失ってしまいます。
最後に残ったのは、大金を得た後でも変わらずに接してくれた同僚と先輩の二人だけでした。

この小説のメッセージは、

  1. 大金を得たとしても、お金の使い方を学ばなければ、お金は残らない
  2. 「金の切れ目が縁の切れ目」でない人間関係こそ本物


という二つです。

主人公は多額の借金を抱えることもなく、命を落とすこともなく、信頼できる人間関係を得てこの物語は終わっています。
途中経過は「悲惨」に近いものがありますが、経験を通じて主人公が成長している点を考えれば、必ずしも「悲惨」とは言い切れない内容です。

まとめ:宝くじに当たったからといって悲惨な人生になるわけではないが、お金持ちになれるわけでもない

ベルギーの宝くじ調査から分かることは、「宝くじに当たっても、今までと同じ生活を続ける人がほとんど」ということです。
「同じ生活を続ける」ということは、毎日の労働から解放されることはない、ということです。

「宝くじが当たったら」という小説から分かることは、「お金の使い方を学ばなければ、お金は残らない」ということです。
「お金は残らない」ということは、お金がなくなったあとは労働に戻る必要がある、ということです。

私の定義では、「お金持ち」とは「お金のために働く必要がない人」のことです。

結局は、宝くじに当たったからといって悲惨な人生になるわけではないが、お金持ちになれるわけでもないということは言えそうです。

野村資本市場研究所によるレポートでも、資産1億円以上の世帯では、総資産の90%以上が実物資産(=不動産)というデータがあります。
※貯蓄は約10%
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※出展:野村資本市場研究所

このデータを見ると、「お金の増やし方」または「お金の残し方」として最もふさわしいのは、やはり「不動産」なのだということを実感します。

宝くじには社会的意義がある

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税金が整備されていない時代には、宝くじの売上が社会事業の資金として使われました。

イギリスでは宝くじのおかげで大英博物館やウェストミンスター橋が建設され、清潔な飲用水が初めて供給された。
アメリカでは、(中略)ハーヴァード大学やエール大学の設立をはじめとする重要な計画の資金源となった。

※出展:宝くじの文化史(ゲイリー・ヒックス著)

2012年のロンドン・オリンピックでは、宝くじの収益から2750億円(※)が運営費として投じられました。
※2012年8月の為替:1ポンド=125円で換算

宝くじについて調べたおかげで、私自身が宝くじに対して感じていたネガティブな印象を、少し変えることができました。
「宝くじ」は「お金を増やす方法」には向いていませんが、少額から参加できるエンターテインメントであり、社会事業の収益源でもある点を考えれば、今後も続いていって欲しい制度です。

横浜不動産勉強会(横浜インベスターズ)

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