2022年4月21日に開催された、エネルギー研究会の「2022年3月22日需給逼迫は何が原因だったのか」webセミナーのレポートです。
◼️このセミナーが開催された目的
当時の「太陽光発電を増やしすぎたせいだ!」「原発が止まっていたせいだ!」といった説への反論として、このセミナーは企画・開催されたように思います。
※個人の感想です。
◼️このセミナーの概要・まとめ
このセミナーの主張は、
根拠のない説は疑ってかかった方がよい、
ということです。
とはいえ、このセミナーを聞いたとしても
「原発を再稼働すべきだ!」
「再生可能エネルギーは頼りにならない!」
と考えている人たちの意見が変わるとは思えませんでした。
なぜなら、人は簡単な説明を好むからです。
ここから、セミナーの内容です。
◼️電力需給が逼迫した原因は?
1) 3/16の地震での発電所の停止。2) 3/22の寒波。3) 連系線の定期点検。
普段は電力需要が下がる春先に、連系線の定期点検が行われており、連系容量が下がっていた。ただし、3/26は安全限界を短時間超えて東北から東京に電気を送っていた(115%)。
◼️検証
Q. 急激な寒波は予測できなかったのか?
A. 1週間後の天気を予報することは実質的に困難。1日前になって、やっと実態に近づく。
需要予測の大幅なズレ(約7GW)は年に8回くらいはある。
過去の例では5GWくらいのズレでも需給逼迫にはならなかった。
つまり、地震による発電所停止と、連系線の点検がなければ、需給逼迫にはならなかった可能性が高い。
休眠中の発電所容量合計に、東北・中部からの連系容量を足すと、約55.7GW。
2021年度の最大需要が約53.7GW(2022年1月6日)。
2022年3月22日の需要が48.4GWで、発電所の停止や連系線の点検がなければ、供給能力には15%くらいの余裕があったことが分かる。
◼️よくある誤解とファクトチェック
そもそも原発が稼働していなくても、冬季ピーク(1〜2月)需要は満たしている。
毎年3月は発電所の定期点検の時期。原発が動いていても他の発電所が停止している。原発の稼働とは別問題。
つまり、今回の需給逼迫と原発は全く関連性がない。
統計的にも原子力と供給力には有意な相関が見られない。
電力自由化に関しても、連系線の容量に関しても、有意な相関性がない。
太陽光に関しては、もともと予想供給力(アデカシー)は少なく見積もられている。
3/22の太陽光の実出力は1.75GWであり、予測供給力の0.39GWの4倍以上だった。太陽光は曇天でも晴天時の40%、雨の日でも25%位は発電する。
論理的な裏付けがない主張はただの思い込み。
科学的でない対策はそれ自体がリスクになる。
◼️今後の対策
原発再稼働や火力発電は効果が期待できない。
容量市場は希頻度事象に対応できない。
デマンドレスポンス、熱貯蔵、断熱の促進こそが有効。
戦略的予備力も重要。
戦略的予備力とは、安定供給に必要な供給予備力を定め、これを入札するもの。予備力のレベルは平均的な最大電力の5%程度。
戦略的予備力で採用された電源は、電力市場に参加せずに停止して待機することになる。
◼️まとめ
2022年3月22日の需給逼迫は、
地震による火力発電の停止と、季節外れの寒波が重なったことが原因。
二つの事象の同時発生は希頻度事象であり、これに対する事前予防は経済的に過大となる可能性が高い。
今回は節電協力に訴えるしかなかった。
リスク対応については改善すべき課題が残る。
◼️パネルディスカッション
火力や原子力と比べると、太陽光や風力発電はレジリエンス(被害を受けた際の復旧スピード)に優れている。
3・11の時でも東北の約1000基の風車のうち、基礎にヒビが入ったのはたった1基だけだった。
予備力に関しては声の大きい少数が決めるのではなく、費用便益分析で決めるべき。
お願いベースで経済的負担を国民に強いることは、合理的な方法ではない。コロナの時と同じ。経済行為としてインセンティブの仕組みを作るべき。
需給逼迫時のインバランス料金が80円というのは安すぎる。新規参入の電力会社も相応の負担をすべき。
デマンドレスポンスの議論が遅すぎる。
3/22の節電のお願いで5GW需要が下がった。5GWといえば需要合計の1割以上。これだけの市場ポテンシャルがある。アグリゲーターの議論も重要。
■あとがき
ここから私個人の感想です。
「突然の大規模停電(無計画停電)よりは、計画停電の方が望ましい」
ということをセミナー講師の安田さんは言いたかったようです。
3/22にブラックアウト(無計画停電)が起きなかったのは、運が良かっただけ、と言えるかもしれません。
節電のお願いで節約できた5GWという電力は、発電所を作るとしたら1兆円規模の経済効果に匹敵します。
デマンドレスポンスには、充分な市場規模・ポテンシャルがあると言えます。