契約の場面では、意思と表示が一致していることがふつうですが、場合によっては意思と表示が一致していないときがあります。
※出展:合格しようぜ! 宅建士 2016 音声付きテキスト&問題集 下巻[権利関係等]。以下、出展元の記載がない場合は同著からの引用。
意思と表示の違いは以下の通りです。
- 意思・・・内心の思い
- 表示・・・相手に伝える
1)心裡留保の場合
心裡留保とは、本人(表意者と言う)がウソや冗談(真意でないこと)を知っていながらする意思表示。
例えば以下のようなケースが考えられます。
300万円で売買が成立した取引で、買主(以下「買」)が
(買)「お金が余ってて困ってるから、やっぱり3億円で買いますよ!なんてね!テヘ!」
と言ったとします。
その後、買主のお寒い冗談を理解できなかったマジメな売主(以下「売」)が、
(売)「そうですか。じゃ、3億円に訂正しましょう。」
と契約書を変更したとします。
引き渡しの段階で、価格が3億円になっていたのを見て驚いた買主が、
(買)「3億円なんて冗談だよ!この取引はナシだ!」
と主張したとします。
このケースでは取引は無効になりません。3億円での取引が有効です。
取引をやめるのであれば、買主は違約金約6000万円を支払わなければいけません。
心裡留保の例外
相手方が心裡留保であることを知り(悪意)、または知ることができた(善意だけど過失あり)ときは、無効となる。
- 善意・・・事情を知らないこと
- 悪意・・・事情を知っていること
2)虚偽表示の場合
虚偽表示とは、相手方と共謀(通謀)するでっちあげの意思表示。差し押さえを免れるために、相手方と示し合わせて自分の不動産を相手に移すなどの行為。
虚偽表示の例外
意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
例えば以下のようなケースが考えられます。
Aが仕事上の知人Bから、仕事の運転資金を借りました。
Aが借金を返済しなかったため、債務者Aの不動産(抵当権の設定なし)を債権者Bが差し押さえしようとしています。
その後、債務者Aは所有不動産の差し押さえを逃れるため、知人の買主Cに仮装譲渡を計画します。
(A)「Cくん、Cくん、格安の土地取引に興味はないかね?」
買主Cはお金がないので、債務者Aに不動産の代金を支払うことができません。
(C)「えー。僕、お金ないですよ。土地なんて買えないですぅ。」
しかし、債務者Aは、
(A)「差し押さえを逃れるまでの避難措置だから、1000円でいいよ。その代り、ほとぼりが冷めたら所有権を元に戻してもらうから。」
と買主Cに伝え、一時的な名義変更のつもりで不動産の所有者を買主Cに変更しました。
「一定期間経過後、名義を戻す」という内容で契約書も作成しました。
買主Cに所有権が移転してしばらくたった後、債権者Bは債務者Aの不動産を差し押さえしようとしました。
しかし、所有権が買主Cに移転しているため差し押さえできません。
(B)「差し押さえできねえ!」
債権者Bは泣く泣く手を引きます。
ほとぼりが冷めたと判断した債務者Aは、買主Cに連絡して所有権を元に戻そうとしました。
しかし、買主Cに電話してもメールしてもLINEを送っても、まったく返事がありません。
おかしいな?と思った債務者Aは、不動産の最新の登記簿を確認してみました。
すると、買主Cが第三者Dに不動産を売却した記録が残っていました。
買主Cはお金に困り、第三者Dに不動産を売却してしまったのです。
怒り心頭の債務者Aは、行き場のない怒りを第三者Dに向けます。
(A)「買主Cと私は、しばらく時間がたった後、所有権を元に戻す約束をしていたんだ!お前と買主Cの売買契約は無効だ!」
と主張し、買主Cと結んだ契約書を突きつけます。
しかし、第三者Dは素知らぬ顔で全く取り合いません。
(D)「あなたたち(債務者Aと買主C)は、通謀虚偽表示をしていたのですね。その場合、あなたたちの契約は無効ですよ。」
と返答しました。
その後、債務者Aは買主Cを地獄の果てまで追いつめることを決意しました。
3)錯誤の場合
錯誤とは、本人の勘違いや思い違いで本心とは異なる意思表示をすることを言う。本人は勘違いに気付いていなかった。
勘違いで契約してしまった場合は、基本的には契約は無効になります。
錯誤の例外
法律行為の要素に錯誤があっても、重大な過失がある場合は無効を主張することができない。
4)詐欺の場合
詐欺による意思表示は取り消すことができる。
詐欺に引っ掛かって契約してしまった場合、契約は取り消すことができます。
「取消」であって、「無効」ではない点に注意が必要です。
詐欺に引っ掛かった本人が、契約を取り消さない方がトクだと判断した場合には、そのまま契約を続けることも可能です。
詐欺の例外
善意の第三者には取り消しを対抗することができない。
例えば以下のようなケースが考えられます。
所有者Aの土地を欲しいと考えていた詐欺師Bが、土地に関する悪いウワサを所有者Aに吹き込みます。
(B)「Aさん、知っていますか。その土地は、太平洋戦争当時に陸軍の細菌兵器の研究所があった場所なんですよ。少量でも体に付いてしまったら人間なんて簡単に死んでしまう猛毒細菌エボラボラが、今でも大量に生息しているんですよ。」
この話を聞いた所有者Aは、
(A)「ひぇ~!こわ!こんな土地要らないよー!」
と思ってしまいました。そこに付け込んだ詐欺師Bは、
(B)「実は私、大学の生物学研究所で働いていまして、研究のためにその土地を買いたいんですよ。100万円で売ってくれませんかね?私たち以外には買おうなんて人は1人もいないと確信していますが・・・。」
その土地の固定資産税評価額は1億円でした。しかし、細菌の恐怖で何も考えられなくなってしまっていた所有者Aは、
(A)「良かった!買ってくれる人がいるだけでも儲けものです!」
と、二つ返事で土地を詐欺師Bに売却してしまいました。
3年後、元所有者Aは、細菌学の権威の大学教授Cと知り合いになり、細菌に汚染されていた土地の話をしました。
しかし教授は、
(C)「エボラボラなんて聞いたことないですよ?」
との反応でした。
元所有者Aは不安になり、詐欺師Bに連絡しました。
しかし、詐欺師BにメールしてもLINEを送ってもTwitterでメンションを送っても、まったく返事がありません。
おかしいな?と思った元所有者Aは、不動産の最新の登記簿を確認してみました。
すると、詐欺師Bが第三者Dに不動産を売却した記録が残っていました。
「騙された!」と怒り心頭の元所有者Aは、行き場のない怒りを第三者Dに向けます。
(A)「私は詐欺師Bに騙されていたんだ!お前と詐欺師Bの売買契約は無効だ!」
と主張しました。
しかし、第三者Dは素知らぬ顔で全く取り合いません。
(D)「詐欺の場合、善意の第三者には取り消しを要求できませんよ。お気の毒ですが、詐欺師Bを探して損害賠償請求をされた方がよろしいのでは?」
と返答しました。
その後、元所有者Aは詐欺師Bを世界の果てまで追いかけることに決めました。
5)強迫の場合
強迫とは、他人におどされてしまった意思表示。
強迫されて契約してしまった場合は、契約は取り消すことができます。
強迫の例外
なし。