「制限行為能力者」と呼ばれる人たちと不動産取引をする場合は、様々な制約を受けることになります。
※出展:合格しようぜ! 宅建士 2016 音声付きテキスト&問題集 下巻[権利関係等]。以下、出展元の記載がない場合は同著からの引用。
民法の基礎
制限行為能力者について理解する前に、民法の基礎を理解しておく必要があります。
民法は、取引におけるトラブルの解決策として用いられます。
- 契約が成立しているのかどうか。
- 債権が存在しているのかどうか。
上記のような点は、民法に基づいて判断されます。
債権とは
債務者などの特定の人に、金銭の支払いや労働など、契約通りのことをするよう要求できる権利。
- 相手に要求する権利を持っている人=「債権者」
- 相手の要求に応じる義務がある人 =「債務者」
契約当事者は、債権者と債務者という立場に分かれます。
契約の成立
申し込みと承諾という意思表示の合致により成立。
契約書やハンコはあくまでも形式的なものであり、契約が成立したからには、その内容を守らなければいけません。
意思能力
契約する時に、契約をすることの意味を理解する能力。
未成年者など、意思能力が不足していると思われる人は制限行為能力者と呼ばれます。
制限行為能力者制度
- 未成年者
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
上記の四者を、制限行為能力者と呼びます。
1.未成年者との取引
未成年者が法定代理人の同意を得ずに、また、法定代理人の代理によらないで、おこなった法律行為は取り消すことができる。
法定代理人とは、親権者・未成年後見人のことです。
未成年者が単独で行える行為
- 物をもらう
- 借金を帳消しにしてもらう
- 旅費を使う
- 学費を使う
- 法定代理人から許可を受けて行う宅建業に関する営業
等。これらの行為は取り消すことはできません。
成年者と扱われる未成年者
- 法定代理人から営業の許可を受けた未成年者
- 婚姻をした場合(成年擬制)
2.成年被後見人との取引
精神上の障害で事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の審判を受けた者。保護者は「成年後見人」。
成年被後見人の法律行為
- 原則:成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。
- 例外:日用品の購入その他日常生活に関する行為については単独で行える。取り消し不可。
3.被補佐人との取引
精神上の障害で事理を弁識する能力が著しく不十分である者、家庭裁判所の審判を受けた者。保護者は「保佐人」。
保佐人は、
- 同意権
- 取消権
- 追認権
の3つの権限を持っています。
被補佐人の法律行為
- 原則:重要な財産上の行為をするには、保佐人の同意を得なければならない。保佐人の同意を得ない場合は取り消し可能。
- 例外:重要な財産上の行為以外、および日用品の購入その他日常生活に関する行為については単独で行える。取り消し不可。
重要な財産上の行為とは
- 定期預金等の元本の返還や、元本の貸出。
- 借金または保証。
- 不動産等重要な財産の売買。
- 訴訟行為。
- 贈与、和解、仲裁契約。
- 相続承認または放棄、遺産の分割。
- 贈与申込の拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申し込み承諾、負担付遺贈の承認。
- 新築、改築、増築、大修繕。
- 建物3年、土地5年(短期賃貸借)を超える期間の賃貸借。
- その他、本人や配偶者など一定の者の請求により、家庭裁判所が特に保佐人の同意を要すると審判をした行為。
4.被補助人との取引
精神上の障害で事理を弁識する不十分である者、家庭裁判所の補助開始の審判を受けた者。保護者は「補助人」。
補助人は、審判で付与された特定の行為について同意権などの権限を持つことになります。
被補助人の法律行為
- 原則:特定の行為(同意権・取消権の対象となる行為)をするには、補助人の同意を得なければならない。補助人の同意を得ない場合は取り消し可能。
- 例外:特定の行為以外、および日用品の購入その他日常生活に関する行為については単独で行える。取り消し不可。
制限行為能力者の相手方の保護
契約において、制限行為能力者は圧倒的に有利な立場であり、取引相手は不利な立場に置かれています。
そのため、取引相手には「催告権」という権利が認められています。
制限行為能力者と取引をした相手側は、一か月以上の期間を定めて、追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
催告の相手方が保護者の場合、確答がない時は追認したものとみなされます。
催告の相手方が制限行為能力者(被保佐人・被補助人)の場合、確答がない時は取り消したものとみなされます。
制限行為能力者でも取り消しができなくなる場合
詐術
制限行為能力者が、行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた時。
法定追認
保護者が次のような行為をした場合、「法定追認」と見なされます。
- 全部または一部の履行
例)目的物の引き渡し。代金の支払い。 - 履行の請求
例)保護者が代金の請求をする。 - 更改
例)代金債務を借金に改める。 - 担保の供与
例)代金債務に保証人を立てる。 - 取消可能な行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡
例)土地の転売。 - 強制執行
例)代金債務回収のための強制執行。
時効消滅
追認できる時から5年、行為の時から20年経過。
まとめ
購入した物件で、二分の一持ち分を成年被後見人が保有していたことがありました。
売買契約書には、二分の一持ち分ずつ二人の印鑑が押されていましたが、片方の印鑑は成年後見人の印鑑でした。
当時は「そういうこともあるんだな。」くらいの気持ちで、あまり深くは考えていませんでした。
既に法定追認(目的物の引き渡し。代金の支払い。)が成立しているので、今さら「家を返せ!」と言われることもないでしょうが、もう少し成年後見人制度について調べてから契約しても良かったかもしれません。
不動産取引に関する法律は本当に幅広いです。
宅建業法が整備されていなかった当時(終戦直後?)は、一般人をカモにするような悪徳不動産業者が跳梁跋扈していたのではないかと予想されます。