【日独比較】4)電力市場の違い

気候変動

日本の電力市場では、需給調整に誰が責任を持つのかあいまいな状態が続いています。
ドイツの電力市場では、BRPという電力卸会社が需給調整に責任を持ちます。また、ドイツでは再エネが他の電源よりも優先的に落札され(メリットオーダー)、再エネは送電網へ優先接続されています。

■停電率

停電時間の国際比較|出典:東京電力

1年間の停電時間(1軒あたり)は、日本で86分、ドイツで23分です。
※2020年時点

■電気料金

kWh当たり電気料金(USD)の国際比較
出典:GlobarPetrolPrices.com

kWh当たりの電気料金は、日本で0.254ドル(=29円)、ドイツで0.359ドル(=41円)です。
このうちFIT賦課金(=消費者が負担する再エネ費用)は、日本で3円(10%)、ドイツで9円(22%)です
※2021年時点

■日本の電力市場

・卸電力市場

日本卸電力取引所(JEPX=ジェイペックス)のことです。
JPEXは
・一日前市場(=スポット市場)
・当日市場(=時間前市場)
・先渡し市場
・ベースロード市場
・非化石価値取引市場
を提供しています。

2021年には総需要電力の約4割(※)がJEPXで取引されました。
ただし、東京電力などの地域電力会社が売買両方を行う「グロスビディング」という手法がJEPX流通量の半分以上を占めており、実質的には2割程度と考えられます。
※出典:NRI

・一日前市場(=スポット市場)

翌日分の電力取引(30分毎、全48コマ)を行います。受渡前日の午前10時まで取引可能です。

・当日市場(=時間前市場)

当日分の電力取引を行います。受渡の1時間前まで取引可能です。

・先渡し市場

3年後の電気を取引します。

・ベースロード市場

2019年創設に創設されました。先渡し市場の仕組みを利用して、火力や原子力などのいわゆる「ベースロード電源」の電力をkWh単位で売買します。

・非化石価値取引市場

化石燃料を使用していない電源からの電気を取引する市場です。

・容量市場

2020年に創設されました。4年後の電気を取引します。ベースロード市場との違いは、「電力=kWh」ではなく「供給力=kW」を売買する点です。電力広域的運営推進機関によって運営されています。

・需給調整市場

2021年に創設されました。需要予測と実績の差を埋めるための「調整力」を取引する市場です。送配電網協議会によって運営されています。
電力会社によって運営されていた「調整力公募市場」を、全国・広域に広げたものです。

出力制御(出力抑制)

再生可能エネルギー導入の足かせとなっている仕組みとして「出力制御(抑制)」というルールがあります。
電力需要に比べて発電量が多くなってしまう時間帯に、太陽光発電等の発電を抑える仕組みです。
参考:再エネ出力制御について知りたい|九州電力

■日本の電力自由化

日本の電力自由化は1995年から始まりました。自家発電設備を持つ製鉄会社や石油会社などが発電事業に参入できるようになりました。
2000年には、ガス会社や商社などが小売事業(一般消費者向けは除く)に参入できるようになりました。
2016年には、小売事業が完全に自由化されました。
2018年~2020年にかけては、電力会社の発電部門と送配電部門の分離(=発送電分離)が行われました。

■ドイツの電力市場

出典:Leipziger Vorkszeitung

市場の種類

ドイツの電力取引所には、EEX(欧州エネルギー取引所)EPEX(欧州電力取引所)の2つがあります(EPEXはEEXのグループ会社)。
EEXでは先物市場(6年後まで)を提供しています。
EPEXでは、
・一日前市場(前日の午前11時まで)
・当日市場(受渡の5分前まで)
・柔軟性市場
を提供しています。

他にも、
・バランシング市場 → 最終的な需給を一致させる役割。
・アンシラリー市場 → 周波数・電圧等の調整を行う役割。
といった市場があります。
これらはTSO=送電会社によって運営されています。

メリットオーダー

ドイツの電力市場では「メリットオーダー」という制度が導入されており、変動費の低い再エネから順番に落札される仕組みになっています。

BRP(需給責任会社)

ドイツでは「BRP(Balance Responsible Parties)」が需給調整に責任を持っています。
各BRPが大口需要家や発電所と複数契約しており、BRP間やTSOとの間を卸業者のように仲介・精算する役割を担っています。
2021年時点で、ドイツには3000を超えるBRPが存在しています。
※出典:Tennet

■ドイツの電力自由化

ドイツの電力自由化は1996年に始まりました。
1998年には、消費者が電力小売会社を自由に選べるようになりました。
2007年から2010年にかけて、発送電分離が行われました。

■まとめ:日本では需給調整の責任の所在があいまい

ドイツでは「BRP(需給責任会社)」が需給調整に責任を持ちます
一方、日本では誰が需給調整に責任を持つか、あいまいなままです。「みんなでなんとかしよう!」(=どうにもならない)という状態が続いています。
ほかにも、当日市場の締切は日本では受渡の1時間前ですが、ドイツでは5分前といった差があります。
また、電力自由化が始まった時期は日本とドイツでほぼ同時ですが、小売自由化・発送電分離については約10年強の差があります。

※アイキャッチ画像:Unsplash

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