シャッター商店街の店主は実は裕福?「地域再生の失敗学」から地方の不動産市場を読み解く

不動産経営

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地方社会の衰退、人口減、過疎化、少子高齢化。
将来に明るい材料を見出すことが難しくなっているのが、現在の日本経済だ。
この記事では、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの木下斉氏と経済学者の飯田泰之氏の対談「地域再生の失敗学」を参考に、地方の不動産市場の現状について考える。

大企業で働いている人はたったの2割

(飯田)就労者の80%近くは中小・零細企業に雇用されているか、自営業主として生計を立てている。主要都市を除けば、大企業以外で働く人の割合はさらに高くなる。

家を貸す際には審査を実施することになる。
私を含め多くの貸主は、入居者の職業や収入を見て、
「この人は滞納をせずに家賃をきちんと払ってくれるだろうか?」
と不安になる時もあるだろう。

本書の編者の飯田氏によれば、東京圏などの主要都市でさえ大企業で働いている人はたったの20%とのことである。この割合は、地方においてはさらに低くなる。
入居者の勤務先が聞いたこともないような会社であったり、従業員10人未満の零細企業であったりしても、特段神経質になる必要はない。なぜなら、地方ではほとんどの人が中小・零細企業で働いているのだから。

シャッター商店主は生活に困ってなどいない

(木下)地方でも、戦後の高度経済成長期に商売をやってきた人たちは、儲かっていた時代に投資をして、かなりの資産を持っていることが少なくありません。
店にお客さんが来なくても、近くにマンションを持っていて家賃収入があり、生活には問題がなかったりするわけです。さらにいい時代に稼いだ貯蓄もあるし、年金も入ってくる。息子は東京に出て、会社でちゃんと勤めている。こうなれば、自分たちはやっていけます。

シャッター商店街は、地方経済の衰退の象徴のように報道されることが多い。
しかし木下氏によれば実態は、「店を営業しなくても問題なく生活を送れる高齢家主」というケースもあるという。

「地方なら中古不動産も安く手に入るだろう」と考えてしまいがちだが、生活に困っていない売主を相手に値下げ交渉を成立させるのはなかなか難しい。売主は所有物件を安く手放すつもりなど毛頭ないからである。

地方のマンションの空室率が上昇した時こそ、地方の中古不動産の購入チャンスと言えるかもしれない。マンションからの家賃収入がなくなれば、所有物件を現金化する動機が売主に生じるからだ。
しかし、その頃には入居者を見付けるのも難しくなっているはずである。結局、リスクとリターンは切り離せない関係と言える。

廃業できるのは資産に余裕がある証拠

(木下)店を廃業できるのは資産に余裕のある人だけなんです。
廃業時には銀行から借り入れた開業資金を返さなければなりません。
すべての事業資金を現金で返済し、さらに毎日の売上がなくとも自分の生活はまったく問題ない。
つまり豊かなのです。

廃業を経験した人は、商売という面倒な稼業に嫌気が差してしまっている可能性が高い。さらに不動産収入や年金が定期的に入ってきていて、生活費の心配がない状態であれば、「地域を活性化しましょう!」という声をかけられたとしても、「めんどくさいからゴメンだよ。」という反応になってしまうのも当然だろう。

新しい感覚を持ったよそ者の事業主が大挙して押し寄せて来ない限り、既に衰退してしまった地域の活性化・再生はほぼ不可能と言ってもいいだろう。

メインストリートよりも路地裏に商機がある

(木下)我々が地域で事業を立ち上げる際には、プライドが高くて経済感覚に疎いメインストリートの不動産オーナーと交渉するのではなく、合理的な判断力のある路地裏の小さな物件を保有する不動産オーナーさんと仕事をします。

地方でも一等地に物件を保有しているオーナーは、強気の家賃設定をして、面倒を避ける傾向がある。
立地上、不利な戦いに挑まざるを得ない路地裏のオーナーの方が、果敢にリスクを取りに行くのは当然かもしれない。

中古不動産を購入する場合も、立地が良い場所よりも多少不便な場所の方が、値下げ交渉は成立しやすい。

商品を左から右に流すだけでは商売にならない

(木下)商品を左から右に流すだけでは商売にならなくなっている。
(中略)
例えば地元の栗を使ったお菓子を作ったとして、中国産の栗菓子が並んでいるスーパーで競争したら、二束三文で買いたたかれることになります。
じゃあそのお菓子を出すカフェをつくろう、パッケージをちゃんとしたデザイナーと協業してやろう、加工技術も学んでみよう、製造はあえて手作りにしてそのストーリーで単価を引き上げよう、さらに売り場も自分たちでつくってみよう・・・となっていくと、中国産のお菓子とはグラム当たりの付加価値がまったく違うものになるわけです。

この段落の内容はそのまま不動産投資にも応用することができる。

「例えば地元産の木材を使ったアパートを作ったとして、中国産の木材で建てられた建売住宅と競争したら、二束三文で買いたたかれることになります。
じゃあアパートの1階では地元産のお菓子を出すカフェをつくろう、外観をちゃんとしたデザイナーと協業してやろう、ゼロエネルギ-住宅にしよう、内装はあえて北欧から輸入してそのストーリーで家賃を引き上げよう、さらにモデルルームも自分たちでつくってみよう・・・となっていくと、量産型の住宅とは付加価値がまったく違うものになるわけです。」

中古不動産も、何の手も加えずに右から左に流すだけでは入居者をつかむことは困難だ。

チェーン店頼みのまちの危険度

(木下)チェーン店の撤退後に不動産屋に「他のチェーン店を入れたい」と頼んでも、「もう引きがありません」と言われるだけのこともあります。では地元の店が入ってくれるかというと、チェーンに貸している間に地元との関係を切っていたオーナーに、ツテなんてありません。
(中略)
一階部分はチェーン店が入ってくれるならば貸してちゃんとビルの維持に必要な家賃を稼ぎ、そのかわり二階以上のフロアを放置するのではなく、ちゃんと地元向けテナントを開拓して利用してもらうように営業する。
こういった合わせ技を進めることです。でないと、チェーン店頼みの不動産経営は必ず、まちの価値が低下していくと大変なことになってしまいます。

商業用不動産と住宅用不動産では多少性質が異なるかもしれないが、「地元とのツテ」「地元向けテナントの開拓」というのは住宅系不動産でも忘れてはいけない営業努力と言えるかもしれない。
不動産屋頼みだと入居者募集はどうしても「待ちの姿勢」になってしまう。オーナー自らが地元のツテを開拓できるようになれば、空室期間の短縮につながるだろう。実現するには多大な努力を必要とするが。

まとめ

本書が触れている「合理的な判断力のあるプレイヤー」という存在は、相当エネルギッシュで、リスクを果敢に引き受けることのできるタイプの人間のように見える。
平日は地元の飲食店を経営し、空き時間は趣味の教室として転用し、週末は都市部の百貨店で出張販売を行う。さらに、商品の企画・製造から、マーケティング・流通・販売まで一手に担う。
休むヒマなどないのではないかと思えるほどである。ブラック企業と同等かそれ以上の働き方をしなければ、到底回せない業務量ではないだろうか。

言い換えれば、「地方経済を立て直す」という行為は、相当な覚悟と業務量を必要とする一大事業とも言える。

「商売とはそんなもの」と言われればそれまでだが、命を削るような働き方が否定されつつある現状においては、このような働き方はごく一部の人間のみに可能な働き方だ。
多くの人間が地方経済再生に関わるためには、リーズナブルな賃金で働いてくれる従業員の存在や、1人で全てをやろうとしない姿勢、自動化・効率化を進めることで負担を軽くする努力などが必要になるだろう。

本書自体は、地方経済や地方不動産の現状を知るのに間違いなく役立つ資料と言える。

参考

地域再生の失敗学 (光文社新書)

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