既存不適格の格安中古アパートは「買い」か?

不動産経営

物件情報を見ていたら「既存不適格」という言葉が目に入った。

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「既存不適格」物件は格安な値段で売りに出ていることが多い。
しかし、「不」というワードからは「買ってはいけない」オーラがにじみ出ている。
「既存不適格」物件を買って賃貸に出しても問題がないのかどうか、調査してみた。

「違法建築」とは?

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「既存不適格」と似た言葉に「違法建築」というものがある。

「違法建築」とは、設計や建築の時点で建築基準法などに適合しておらず、建築確認が下りなかったにも関わらず、無理やり建ててしまった建物だ。

「違法建築」は、居住快適性や安全性に問題がある。
入居者募集にあたっては大いに苦戦することが予想される。
さらに違法建築の場合、行政から是正命令が出され使用の中止を求められるリスクもある。

「既存不適格」とは?

「既存不適格」は、「違法建築」とは大きく異なる。

建築当初は法規制に適合していたものの、法改正や規制強化の影響で現時点では適合しなくなってしまった建物を「既存不適格」建物と呼ぶ。

「既存不適格」になってしまった原因としては、以下のようなものが挙げられる。

理由1)耐震基準の改正の影響

大地震が起きるたびに、建築基準法における耐震基準は改正されてきた。

1981年の耐震基準改正は、1978年の宮城県沖地震がきっかけだった。
2000年の耐震基準改正は、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけだ。
2011年の東日本大震災をきっかけとした耐震基準改正は2016年現在実施されていないが、国土交通省は「住宅・建築物の耐震化の促進」という方針を打ち出している。

例えば1995年に建築された建物が、2000年の改正耐震基準に適合していない場合、「既存不適格」として扱われることになる。

理由2)高さ制限の厳格化の影響

日影規制や高度地区の規制強化により、建物の高さが規制に引っかかるようになることがある。

理由3)防火地域へ変更されたため

建築当初は防火地域ではなかった場所が、のちに防火地域へと変更された場合、耐火建築物以外の建物は「既存不適格」となってしまう。

理由4)建ぺい率が足りなくなったため

規制強化等で敷地の建ぺい率が減少したため、「既存不適格」となってしまう場合がある。
建ぺい率減少の原因としては以下のようなものがある。

(原因1)用途地域の変更

建築当初は建ぺい率の範囲内に収まっていたが、のちに用途地域の変更などが実施され、建ぺい率が減らされてしまったケース。

例えば神奈川県の三浦市では、2015年に「風致地区」(※)の指定地域変更があった。
※「風致地区」とは、都市部における自然環境・景観を維持するための地区。

「風致地区」指定以前に建ぺい率50%・60%だった地区でも、「風致地区」に指定されると建ぺい率が40%に減少してしまう。
結果として建ぺい率オーバーとなり、「既存不適格」になってしまう。

(原因2)セットバック

幅員4メートル未満の位置指定道路に面している土地では、建て替えの際に敷地と道路の境界から後退(セットバック)して建物を建てる必要がある。
セットバックをおこなうと、敷地面積は減少する。
建て替え後の敷地面積で計算すると、既存建物の延床面積が基準をオーバーしてしまい、「既存不適格」となってしまったケース。

(原因3)敷地の収容

自治体の道路開発などの目的のため土地の一部を収容され、敷地面積が減少してしまったケース。

まとめ:「既存不適格」という理由だけで見送るのはもったいない

現在の法律では、賃貸契約の重要事項説明において「既存不適格」または「違法建築」について入居者に説明することは義務づけられていない。

賃貸の場合の特有事項
  1. 台所、浴室、便所その他の設備の状況
  2. 契約期間、契約の更新に関する事項
  3. 定期借地権を設定しようとするとき、定期建物賃貸借(定期借家)契約・終身建物賃貸借契約をしようとするときは、その旨
  4. 宅地や建物の用途その他の利用の制限に関する事項
  5. 敷金など(名義は問わず)、契約終了時において精算することとされている金銭の精算に関する事項
  6. 宅地や建物の管理が委託されているときは、受託者の商号、主たる事務所所在地

もちろん、法律で義務付けられていないから「違法建築」を隠してもOK、とまでは言い切れない。
入居者との信頼関係を良好に保ったり、トラブルの芽を事前に摘んだりするためには、デメリットも包み隠さず話すのが一番だ。

結局のところ、家賃は周囲の競合物件との比較で決まる。
立地や建物の状態が良いなど、空室を埋める自信があるのであれば、「既存不適格」という理由だけで見送るのはもったいない。

ただし、「既存不適格」という言葉に難色を示す金融機関が多いのも事実だ。
「既存不適格」物件の購入を希望しているのであれば、現金購入のほうが望ましい。

参考文献

  • 「耐震化の法律読本」(著:匠総合法律事務所)
  • 「木造住宅の耐震設計」(著:樫原健一)
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