不動産業界の激変を裏付ける10の証拠(世界経済フォーラムの記事の日本語訳)

「ダボス会議」(※)を主催している世界経済フォーラムの記事に、
「不動産業界の激変を裏付ける10の証拠」(10 ways the real estate industry is changing)
という記事があった。
不動産業に関わる一人として気になる見出しだったため、日本語訳(筆者意訳)を紹介する。

※年に一度、世界で最も影響力のある実業家や政治家たちがスイスのダボスに集まり、経済や国際問題などに関して議論を行う会議。


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※出展:Linkedin

不動産業界の激変を裏付ける10の証拠

不動産仲介業者、仲買人、電話調査員の共通点は何だろうか。

近い将来にこれらの仕事はなくなるという点だ。オックスフォード大学の研究チームによれば、これらの仕事がAIに取って代わられる可能性は97%から99%と予想されている。

「この世で唯一所有できる物は、売ることのできるものだけだ。」
アーサー・ミラーの劇『セールスマンの死』の中で、チャーリーがウィリー・ローマンに語った言葉だ。

不動産市場で起きている技術革新は、「売ることのできるもの」を奪い去るだけでは済まない。不動産に関する仕事を劇的に変化させるだろう。
近年の研究は、仲介業者だけではなく不動産業そのもののあり方を考え直す必要性を示唆している。新技術はもちろんのこと、人口動態や人々の行動の変化は不動産業全体に多大な影響を及ぼす。不動産という仕事や技能、ひいてはビジネスモデルについて考え直す必要がある。

現在の不動産業は消滅するだろう。その理由は10点挙げられる。

1)新しい顧客は新しいやり方を不動産業に要求する

プライスウォーターハウスクーパース・ドイツのノーバート・ヴィンケル=ヨハンによると、「シェアエコノミー」(モノを購入したり所有したりするよりも借りることを人々が好む経済)は、2025年までに3,350億USドル(約37兆円)の収入を生み出すと考えられている。
その結果、既存の不動産業界の収益や市場シェアは、シェアエコノミーに全て吸い取られてしまうだろう。
Airbnbのようなサービスが若年層の間で人気を博している一方で、社会の老化は私たちの不動産に対する考え方を否応なしに変えようとしている。私たちは高齢化社会のニーズを満たさなければならない。介護生活や、高齢者にも利用しやすい施設や、高齢者を可能な限り病院に縛り付けずに済むような新しいアイデアを考え出さなければならない。
消費者の行動予測が難しくなる状況においては、人口動態よりも心理動態(不動産に対する欲求が主に消費者の人格、価値観、意見、態度、興味、ライフスタイルによって決まるという考え)が重要となる。
心理動態は、不動産業における成功を決定付ける新しい要素になるだろう。

2)急速な移民および都市化が進行中:準備は間に合っていない

手頃な価格の住居と都市インフラ(交通手段から通信回線まで)に対するニーズが高まっている。
これらは全ての人々に必要な物だが、財源不足によって必要なプロジェクトが実施されない場合が多い。
全産業および社会インフラ全体にわたる、グローバルインフラ投資不足額は年間1兆USドル(約110兆円)にも上る。この額は世界のGDPの1.4%に相当する。
2014年のマッキンゼーの報告書によれば、2025年までには都市住民の1/3(16億人)に及ぶ人々は、ささやかな住居を手に入れることさえ困難になるという。
国連は、2050年までに発展途上国の65%、先進国の86%が都市化されるだろうと予測している。
急速な都市化は既に、経済・環境・健康面で都市コミュニティに多大な影響を与えている。
住宅価格や社会的緊張が高まっていく半面で、「住みやすさ」やコミュニティの質は減少すると予想されている。
不動産業界はこれらの問題の解決に貢献することができる。例えば、新しいソーシャル住宅のコンセプトの開発などが挙げられる。
不動産業界は他にも、規制に関する提案や、革新的な刺激策の提案ができる。刺激策の一例には「土地開発利益還元」がある。(LVC・ランドバリューキャプチャー:公共インフラ投資によって地主が得た値上がり益に対して課税する手法)

都市化に対する懸念が強調される一方で、多くの都市の現状が急速に悪化する可能性にも注目すべきである。
アーバン・ランド・インスティテュートの調査によれば、交通網、電気・ガス・水道、通信網のようなインフラの品質は、不動産投資や都市にとって最も重要な要因である。インフラの中でも、高速インターネットを含む高速通信網は最上位に位置する。
他の重要なインフラとしては、整備された道路網や橋、安定しており低価格な電力が挙げられる。
インフラは、不動産活動や経済発展に決定的な役割を果たす。土地利用計画とインフラ計画の間の密接な連携も求められる。

3)仕事と技能:不動産業の不透明な未来

Pew研究所の調査の回答者の大半は、今から50年後には現在人間が行っている仕事の多くは、ロボットやコンピューターによって行われるようになると考えている。
しかし、自分の仕事に実質的な影響が及ぶと考えている人はほとんどいない。
同じような非合理的な判断、楽観的な偏見は不動産業に関わる人々の間にも存在している。
国民科学産業研究団体(CSIRO)は、20年以内に雇用市場に訪れる6大潮流を発表した。

A) ロボット装置は、人間が行うより多くの作業を、より早く、より安全に、より効率的に行えるようになる。

B) デジタル技術と「プラットフォーム経済」が雇用市場と組織の構造を変革する。未来の仕事は、より柔軟で、より機敏で、よりネットワーク化され、より密接なものとなる。

C) 不動産起業家は自らの仕事を創り出す必要がある。起業家精神と才能が求められる。

D) 労働力は高齢化し、退職年齢はさらに先延ばしされる。組織の労働者は今よりも多様な年齢層で構成される。

E) 自動化システムは、新入社員にもより高いスキルを要求する。所得の伸びは、教育とスキルの量と比例し、競争も激しさを増す。低技能の仕事は海外に発注されるか自動化される。

F) 知識経済に移行する過程で、サービス業における雇用は将来も拡大し続ける。サービス業では社交能力や感情知力(EQ)が今以上に重要になる。

これら全ての変化による不動産業への衝撃は甚大なものになるだろう。

4)解決策としての不動産:問題源ではなく

世界経済フォーラムの報告書によると、不動産業界の電力消費量は世界全体の電力消費の40%以上を占めており、温室効果ガス全体の20%がビルから排出されている。
2030年にかけて、CO2の排出量は56%増加すると見られている。なお、2030年までの望ましいCO2排出増加量は7%である。さらに、ビルは世界中で使用される原材料の40%を消費している。不動産業界は、世界最大の原材料・資源消費セクターである。

このため、現世代が抱える最大の課題・気候変動に対する解決策を、不動産業界は提示する義務を負っている。
気候変動は将来世代に対する最大の脅威である。
健康的で管理可能・持続可能なコミュニティーを実現するために、不動産業界はより一層重大な役割を果たさなければならない。
持続可能性を支持し、循環経済を守り、環境を維持するためのスマートな解決策を推し進めていく役割が、不動産業界には期待されている。
不動産は、都市開発および物質資源の消費者の要であり、多大な量の温室効果ガスを排出している。持続可能な未来を環境面から構築する目標を果たす上でも、不動産は主要な位置を占めている。

5)立地、立地、立地:魔法の言葉は魔力を失った?

産業の革新は不動産空間の再定義によって行われる。
ブリーザー(Airbnbのオフィス版)の創業者兼CEOのジュリアン・スミスは、オフィス空間へのニーズは既に大きく変わっていると主張する。
スミス氏は、伝統的オフィス空間の概念を覆す要因を指摘している。相互接続性、移動性、業務の柔軟性は増加しており、都心の不動産価格にも影響を及ぼすだろうと言う。

都市化の流れへの一つの回答として、職住空間の統一化が挙げられる。
空間の節約にもつながり、自家用車の運転も不要になる。
アメリカ全土の駐車場の土地全てを合計すると、約6,500平方マイル(17,000平方km)にもなり、この面積はコネチカット州よりも広い。空間を効率的に使うためにできることはいくらでもある。
現在、オフィス用不動産の40%から50%は就業時間においても全く利用されていない。夜間や週末も勘定に入れるなら、オフィスの利用率は10%程度である。
同様に、住居を含むあらゆる不動産で非効率な電力の使用が認められる。
世界経済フォーラムの未来都市協議会は、都市革新事業の上位10件において、再定義可能な空間のランク付けを行った。

6)仮想空間 VS 不動産

ネットワークの進歩は不動産のルールを変えた。
立地は今でも重要だが、事業や顧客の移動性、物質空間と仮想空間の関係性および相互独立依存性は大幅に変化した。技術の進化に伴い、技術が不動産に及ぼす影響は一層強まった。
仮想通信、仮想現実、仮想モデリング、例えば不動産におけるビル情報モデリング(BIM)は、事業を変化させ不動産への需要そのものを変えるだろう。

7)指数関数的技術革新が事業革新を起こす

3Dプリンター、大規模なカスタマイズ、新世代の建築資材や建築手法、独占的デジタルプラットフォームの獲得(不動産関連製品やサービスをデジタルプラットフォーム上で取引する生産者が市場を自然独占するケース)、材料を運ぶ無人機、共同作業を行うロボット、アイビーコン、ビッグデータの解析、ウェアラブル技術、現実拡張など、不動産業界における商機は実に豊富だ。
この10年、不動産業界はオンライン市場の発展によって多大な影響を受けてきた。電子商取引の発展やデータセンター需要や倉庫需要の拡大は、既存の小売業の不動産需要を縮小させた。表通りは衰退した。一方で、アマゾンの倉庫は拡大している。
インタ-ネットのような新技術やインフラは、伝統的な地域市場に破壊的競争をもたらした。従来の需要と供給のパターンを決定的に変えた。

8)デジャブ?不動産バブルと構造的リスク

不動産価格に対する不安が拡大している。
世界金融恐慌以降、エコノミストたちは実物資産バブルに対して特別な注意を払ってきた。
2009年に世界株式と不動産市場が底を打った時、34.4兆USドル(約3,800兆円)が失われた。アメリカの家計は約8兆USドル(約900兆円)の損失を出した。このうち6兆USドル(約700兆円)は、持ち家の市場価値から失なわれた額だ。
金融危機の後、不動産市場の予測はさらに難しくなった。この危機的状況を安全に切り抜けるため、長期的な展望は強制的に据え置かれた。政策決定者たちは、公定歩合を用いて実物資産の価格動向をコントロールすることが可能なのか、コントロールすべきかどうか、依然として議論を続けている。
不動産業界の専門家たちは、資産価格の決定方法や資産バブルの主要原因について、有益なアドバイスを提供することができるだろう。バブルを避け、結果をコントロールするための知恵を提供することができるだろう。

9)伝統的な資金調達を今でも必要としているのは誰?

新種の投資家と金融サービスの革新(フィンテックと呼ばれているもの)が、不動産を変質させるだろう。
フィンテック企業はインターネットとAIを利用して金融産業に破壊的変化をもたらす。フィンテックは、銀行や投資マネジャーといった仲介業者を取り除き、コストを引き下げ、金融サービスを今よりもはるかに効率的で消費者が親しみやすいものへと変える。
ブルームバーグによれば、ロボット・アドバイザー(コンピュータープログラムに従い、投資アドバイスをオンライン上で提供する)の一般的な手数料は従来の仲買人の半分以下になる。従来の仲買人の手数料は最低でも総資産の1%だ。
ロボット・アドバイザーが管理する資産には、国内株、外国株、債券および不動産が含まれる。
ATカーニー・コンサルティング・グループは、革新的な金融サービスやロボット・アドバイザー業務の市場は2020年までに2.2兆USドル(約250兆円)に拡大すると予測している。
クラウドファンディングは、投資家や事業家が資金を集める際の有益な手段となりうることを示してきた。この手法が不動産市場にも取り入れられれば、未来における投資の在り方そのものを大きく変えるだろう。

10)信用の問題:都市の統治と透明性

政策が不動産市場に与える衝撃の度合いは徐々に大きくなっている。
政府の方針と都市計画は、不動産市場の発展や既存環境に多大な影響を与える。グローバル化した世界においては、金融政策や会計政策、産業規制や産業の垣根を超えた法制度が、市場および都市の発展にどのような影響を与えるか、予測することは難しい。
都市の大きさや影響力が拡大する中で、自治体のリーダーシップの重要性は高まっている。不動産業界には、成果を期待できる政策を強化し、質の高い都市計画を提唱し、透明性や腐敗という課題へ取り組む姿勢が期待されている。
都市管理と総合計画の改善が求められている。先進国における行き過ぎた規制や、途上国における規制の不在にも着目すべきである。都市の管理は、その増大する複雑さの面からも、主要な課題となっている。

まとめ

後半の方になってくると、不動産との関連性が薄いように思われる情報もいくつか見受けられる。とはいえ、不動産市場全体の方向性を予測する上では、知っておいて損はない情報が多く見られた。

新築不動産を取得または建築した場合、数十年という期間でその物件と付き合って行くことになる。30年後の不動産市場の在り方を正確に予測することなど誰にもできないが、マクロの動向を気にすることで他人よりも少しだけ早く変化に気付けるかもしれない。

参考

[10 ways the real estate industry is changing] | World Economic Forum

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